Saturday, October 13, 2007

We are all winners - 4


いよいよ後半戦。12mileを超えた時点から、ペースが下がり始める。13mileの時点で、8分13秒/mileのペース。ダウンタウンの西に位置するWest Loopに差し掛かり、ちょうど半分の13.2mile地点でスタートしてから約1時間51分が経過。時刻は午前10時前。トレーニングの時は、多少のペースダウンをしても、+10から20秒の間でしっかりとペース維持ができていたため、しばらく様子をみながら走ることに。

ひたすら西へ走り続け15mile、16mileを超えた時点でペースは8分25秒/mileまで落ちる。しかもいっこうにペースを上げれる気配と自信が出ない。そう、やはり恐れていたシカゴではこの季節外れの猛暑で、体が回復する見込みは全くない。しかも、朝の早めの時間にダウンタウンの高層ビルや街中の影が多い比較的涼しい環境で走れていた前半戦から、低い建物の街中を通り抜け、気温は一方的に容赦することなく上がるばかりの後半戦に入ったのだ。「これはまずい」ふと脳裏に真剣な不安がよぎり始めたのも、この頃だろう。

約16.5mileのところにあるAid Station(給水所)で、初めてコップの水を頭からかぶる。そして、更にコップの水を足にかけ、できるだけ体を冷やす。マラソンでリタイヤする最大の理由は、脱水症状である。以前所有していた車のラジエーターに穴があり、特に夏場はよくクーラント液や水を足していたことを思い出し、車と同じように、人間の体もオーバーヒートしてしまうのだろうと考える。

体にかけた水は無情に簡単に乾き、また直ぐに体が熱くなる。昨日の戦略会議で話題にもなった17mile過ぎのPower GelがもらえるAid Stationまでもうすぐだ。そこでエネルギーを補給すればなんとか回復できるだろうとそれだけを考えひたすら走り続ける。

足が重い。死ぬ程暑い。あと約10mileをどのように走り続けることができるのか、自分でも少し先が見えなくなった、その頃にようやくPower Gelの看板が見える。予定では2つここでとって、1つをすぐに食べ、22mile地点でもう一度食べれば大丈夫なはずであったが、予想外の体力消耗でPower Gelを4つもらうことにし、2つを直ぐに食べる。そして、水をもう一浴び、そしてゲータレードをコップ3杯飲む。この補給区間で、スタート後初めて歩く。いつもは走りながら補給する水分も、ここでは歩きながらしっかりと補給。これがどれだけタイムロスであるかは分っているのだが、この時点で目標優先順位は明らかに「完走」。周りのランナー、特にペースランナーと呼ばれる3時間以降10分毎にゴールができるペースで走り、一般ランナーをガイドするボランティアランナー達も、明らかに遅いペースで走っている。ただ、いま振り返ると、まだこの時点では今回のマラソンが通常と比べ、どれだけ厳しい環境であったかを完全に理解することはできていなかった。ただ、ひたすら予定外の猛暑に耐え、ゴールラインを踏むことを考えるのみだった。

19mile時点でのペースは、9分6秒/mile。20milerの時のペースと比べると、約1分遅い。ただ、早く走ることなど到底無理。時刻も11時になろうとしている。気温は明らかに30℃以上。そして、体が熱い。この頃から、高架下をくぐる数十メートルの影や、たまにあるビルの影を見つけた時には、必ずその影の部分のみを歩くようにして、なるべく体をクールダウンさせるようになる。

20,5mileのHolstedまで走れば、2箇所目の待ち合わせで再びelとNb、更に友人のカップルDvとJ.J.に会える。彼らの前では歩きたくない。走っているところを見せたい。そんな思いが、自然と前に足を走らせる。ペースは10分20秒/mileまで落ち込む。どんなに長い距離を走っても、ここまでペースが落ちたことは未だかつてない。ゴールまでまだ6mileもある。大丈夫なのか。

南北に通るHolstedからチャイナタウンに向かうArcher通りで曲がる鋭角のカーブを曲がったその直後に4人が見えた。「暑さでペースは遅れてるけど、絶対完走してみせるからな!」そんなことを大きな声で叫びながら、皆と握手する。するとNbとelが一緒に走って来た。沸騰しそうな真っ赤な顔を見て気づいたのだろう、水を頭からかけながら「あともう少しだから頑張れ!」と声をかけてくれ、一緒に走る。また、この時点で、日本の家族がインターネットで実況中継を見て応援してくれていることを知る。各ランナーの靴についているチップで各距離のタイムがリアルタイムでアップデートされるのだ。テクノロジーを駆使した、国際的な応援に感謝。

200mくらい一緒に走ったところでAid Stationがあり、Nbとelが給水所のテーブルからゲータレードや水を次々と自分に持って来てくれる。まるでプロランナーのようなもてなしにひたすら感謝。4、5杯は軽く飲んだであろうか。通常であれば、それだけ飲んだ後はしばらくお腹に水分がたまり走れない。ただ、この日の暑さで水分の吸収がとても早い。これだけ飲んでも15分後にはまた喉が渇き、体が熱くなる。オーバーヒートする前に2mile毎に設置されたAid Stationにたどり着かなければいけない。そんな繰り返しであった。

elとNbにゴールで会う約束を交わし、再び1人で走り続ける。この頃から、周りで同ペースの人が次々と歩き出し、完全に熱中症で道脇で倒れ込んでしまった人を200mおきには見たような気がする。救急車のサイレンがひっきりなしに鳴り響く。これは異常だ。ついつい、倒れ込んでしまった人を見ると助けたくなるのが人間の心情。でも、自分の足を止めれば、それまで。自分も熱中症で倒れるかもしれない。完走を誓った思いを振り絞り、ひたすら走り続ける。

とてもAid Station毎の水では、持たない状況になった頃、市の協力により路上にある水道管の栓が解放され、コース中にシャワーを撒いてくれる。まったくの一般人が、自宅庭からホースをひいて、ランナーに水をかけてくれる。シカゴでは貧しいエリアに住む人達が、どこかのスーパーで買って来たボトルの水と、自宅の冷凍庫から出してきたであろう氷を配ってくれる。街の人の心の温かみを、身にしみて感じる。

後に分ったことであるが、公式記録では88℉(31℃)、街の一部では92℉(33℃)の暑さを記録した。今年のシカゴの夏でも、こんなに暑い日は記憶に無い。


elやNb、そして皆に支えてもらったおかげでペースが9分53秒/mileまで回復する。21mileを超え、チャイナタウンに入る。

前夜、胸のゼッケンの上に黒のテープで張ったYOSHIの文字のおかげで、マラソン中に計50回以上、老若男女問わず知らない人に声をかけてもらえた。「Looking good, YOSHI!」「We're proud of you!」「Run, Run, Run, YOSHI」中には「I should have gotten marry with you guys!」(貴方達と結婚するべきだったわ!)みたいな面白いかけ声もあった。任天堂のヨッシーのおかげで、たくさんの子供にも声を掛けられた。これが、本当に有り難い。

チャイナタウンでも同じように「GO YOSHI!」なんて声をかけてもらい、手を挙げて答えた。すると、コースに1人顔見知りの男が自分の横を走る。そう、チームの大ボスJである。前日までスイスに出張にいってたはずのJが、なんと抜き打ちで応援に着てくれたのである。どうやら、奥さんのT、娘のLも着てくれていたようだ。しかも、片手には750mlのボトルいっぱいに入った水を持っている。50m程一緒に走りながら、頭から水をかけてくれ、しかも別れ際にボトルをもらった。本当に砂漠で偶然発見したオアシスのような
、そんな瞬間であった。

チャイナタウンから南下し、コース最南端の22mile地点。影を見つけてはひたすら歩き、日差しの中を走る。その繰り返し。いよいよMichigan Avenueに差し掛かり、後は北に向かって約3mileの直線でゴールのGrand Parkに着く。もう、足の筋肉も限界、暑さはとっくに限界を超えている。また、この最後の直線には、まったく影が無い。日差し、気温共に絶高潮。

あと3mileに関わらず、人が更に倒れていく。ふと前の女性が急に歩道の方に倒れ、無意識のままに用を漏らしている。まさかの光景を目の当たりにする。救急車のサイレンはひたすらなりつづける。みんな、あと3mile。夏の間のトレーニングの中休み日で走った、あの軽い3mileが、とてつもなく長い。あんなに長い3mileは今まで経験をしたことが無い。最後の直線用に残しておいたと思ったPower Gelも、いつの間にか食べてしまい無くなっていた。

走る、歩く、走る、歩くをひたすら繰り返し、残り1mile。急に足が軽くなったのか、周りの皆も自分も走り出す。最後の気力で走る。もう、科学的トレーニングも何もない。ここで必要なのは、根性だけ。足はもう走れない。脳から走らないように指令を受けているところを無理矢理は知らせる感じ。Rooseveltに差し掛かり、最後に約400m程の緩やかな上り坂。「なんでやねん。何のためやねん。もう勘弁して。お願い。」と思いながら、ひたすら坂を摺り足であがる。坂を登りきって26mile。Grand Parkの南入り口に差し掛かると、FINISHの大きな緑のボードが見える。あと300m、200m、100m、50m、距離がどんどん近づく。

ゴール!!!!!! 4時間15分22秒で、完走。


やりきった。出しきった。もう何も無い。なんでも持ってってくれ。そんな気持ちで大声で雄叫びを上げた。
ゴールライン周辺は観客が多すぎて約束したelとNbはこちらからは見えない。でもきっと見てくれただろうと信じ、もう動かない足を少しづつ前に。少し歩いたところで、どうやら歩けていないことに心配し、医務員の人が近づいてくる。「Are you okay?」「I think so, I just can not walk anymore」「Probably, I am over heated...」そんなやり取りをし気づけば4人の医務員に方をかけられ、救急テントのベットで横になる。アイスを頭と首に、そしてなんだかよく分らない白い錠剤を2つ口に入れられる。20分程影で休んだであろうか。だいぶん体が良くなる。友達のゴールを見守りたく、ゴールラインへまた自力で戻りひたすら皆を待つ。5時間を過ぎた頃、会社の同僚のOさんのゴールが見える。他の皆とは、出発の5時間30分後にある場所で待ち合わせを決めていた。

そこに行くと、elがプラカードを持って待っていた。ここで、初めてゴール後再会。どうやら、ゴールラインをしっかりと見届けてくれていたようだ。しばらくすると、てっちゃん、そしてKが待ち合わせ場所に到着。この時点で色々な情報が耳に入り、状況が刻々と明らかになってくる。

どうやら、この異常に暑いマラソンで大勢の人が倒れ、マラソン開始後3時間半でマラソン大会自体をキャンセルすることになったと。
4時間の時点で半分地点に着いていないランナーは強制的にバスに乗せられて戻ってきたとか。それ以降のランナーは走らずに歩くよう警察から指示されたとか。5時間以降にゴールするペースの人達には、もう水もゲータレードもほとんどなくなっていたとか。

この時点でまめさんのみまだ待ち合わせの場所に来ていない。もしかして、バスに乗せられたのか。そんな不安がよぎる。5時間30分を過ぎたら、家で直接待ち会わせする約束をしていた。家に戻っていたら、誰もいない。ここは皆で戻ろうという判断をとり、帰路へ。かろうじて歩くことができるが、もう歩きたくない。そんな時、地下鉄が目に入りしかも駅員さんが「お前達マラソン走ったのか?いれてやるから、おいで」とゲートを開けて無料で入れてくれる。有り難い。ブラウンラインのシカゴ駅で降りて、家に戻ると、入り口になんとまめさんが。どうやら、無事にまめさんも完走したとのこと。途中警察が停めようとしているのを無視して、そのまま走り続けたらしい。そりゃそうだ。今まで10ヶ月、トレーニングをして、日本から遥々来てあきらめれるわけがない。自己責任で走り続け、見事にやり遂げた。

これで、全員が無事に2007年のシカゴマラソンを完走した。

自分の成績は、4時間15分22秒。全体で5673位。スタート地点にいたランナー約3万6千人の上位15%。このコンディションで、ここまでやれたことに大満足。後のニュースに寄ると、結局300人以上が病院に運ばれ、20人が入院。5人が絶対安静で、残念ながら、1人が死亡した。

とうとう第30回2007年シカゴマラソンが終わった。

6 Comments:

At 9:36 AM, Anonymous Anonymous said...

Yoshi,

みんなが完走したと聞いて、感動しました。当日は、日本でどきどきしながらCNNを見ていて、死者が出たとか、搬送者続出とか報道されていたので、本当に心配でした。Kから無事みんなが完走したとメールがあったときは、ちょっと涙ぐみました。私はまだ5キロしか走れないけど、ちょっとずつ距離伸ばすぞ!と思います。余談ですが、指輪、いただきました。KだけでなくYoshiやelの気持ちもつまった指輪は一生の宝物です。ありがとう。with K @Kyoto

 
At 9:31 PM, Blogger yoshiamigo said...

Toshiちゃん、
5kmお疲れさん!確かシカゴマラソンと同じ日に走ってたんやったっけ?走ることが楽しければ何kmでも良いと思うよ。今日、俺もマラソン終わってから初めて5kmをelと一緒に約1時間弱かけて走ったけど、あらためてすごく楽しかった。

指輪、もうもらってんね。ご婚約おめでとう!
Kとそんな話しはしなかったけど、タイミングからしてきっとKはマラソンを走りきってから、Toshiちゃんに指輪を渡してあげたかったんちゃうかな。男だから
なんとなくその気持ちは理解できるな。

2007年のシカゴマラソンを完走できたっていうことは、我慢強く、誓ったことは必ずやり通せる人間だと思います。

末永く、お幸せに。来年の結婚式、楽しみにしてます。

 
At 7:49 AM, Anonymous Anonymous said...

誓った事は綿密な計画を立てて最後まで這ってでもやり遂げる・・・完走した君達は大和魂の持ち主や!しかしこの記念すべきシカゴマラソンを機会に5~10KMかハーフマラソンで楽しむ様にして下さい。その気になればキツイ事も出来るという自信と言う大きな収穫を得たのだから。KさんTОSHIさんおめでとう!マラソンより長い人生街道を完走(歩)して下さいね?・・・大和民族代表(老爺)

 
At 10:01 AM, Blogger yoshiamigo said...

老爺さん、

ありがとう。大和魂といえば、マラソンランナーの中に60歳くらいの日本から来たおじさんがいて、日の丸マークに大和魂ってシャツに書いて走ってたな。追い抜き際に「お父さん、がんばりや!」って声をかけてんけど、あのおじさんは完走できたかなぁ。

しばらくは短めの距離でランニングを楽しむ予定です。

 
At 10:43 PM, Anonymous Anonymous said...

最終話、手に汗握りながら読みました。
大変なことになってたんだ!
周りがバタバタ倒れる中を走っていくなんて確かに異常な感じだね。お友達ともども無事に完走できてよかったです。お疲れさま!

Naho

 
At 9:17 PM, Blogger yoshiamigo said...

Nahoちゃん、
ちょくちょくブログで応援してくれて、ありがとう。
とうとう達成することができたわ。このシカゴの街を、足で全部走ったなぁ。Tank Noodleまで走ることも、今となっては朝飯前です。またシカゴに遊びにおいでな。

 

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